2009/09/11

アニー・リーボヴィッツ

息するように生きている事がクリエイティブだった時代がかぶり、5年先輩の写真家 アニー・リーボヴィッツのドキュメンタリー映画「アニー・リーボヴィッツ/レンズの向こうの人生」(2008年公開)を2回も魅入ってしまった。


誰しもが通過する思春期。人生で一度しかない急激な身体変化に付いて行けない心が、家庭と自分、社会と自分、異性と自分、他者と自分の推し量れない もどかしい距離に戸惑う理由なき苛立の季節。突然、大海に放り投げられて、一体どう泳げばいいのか?どっちに泳げばいいのか? ただただ力まかせにジタバタもがく。そんな自分がわからない、位置が見えない不安と焦燥、すべてが不確かな心模様に遭難してしまう。たぶん生まれたてなら、力む事なく無垢な本能からプカプカ浮きながらバブバブニコニコ海遊するのだろう。生まれた家庭環境から見よう見まねで家族の地域の時代のしきたり、言葉を仕草を行動を模倣して、少し人っぽくなり始めると直面する自我の目覚めは、バランスの取れない体と心に、無心と自意識の狭間に、翻弄されてしまう。

多感な季節を過ごした時代。小・中学生だったローティーンの60年代。高校・大学・社会人となったハイティーンから25才までの70年代。第二次世界大戦が終わり20年、世界は戦後生まれが大学生世代になり始めたころだ。日本で言えば団塊の世代。アメリカならフラワーチルドレン&ヒッピー満開。欧州ならフリーセックスを唱えたウーマンリブが台頭し今日のフェミニズムの黎明期。世界のニュー・トゥウェンティーたちは既成概念を嫌悪し体制を声高に批判した。それは人類誕生から400万年をへて人が初めて直面する、まるで人類の思春期のような、何でもかんでもアンチな時代。メインストリームVSサブカルチャーと、東西の冷戦のように対立させ、音楽、演劇、舞踏、美術、広告、衣装、写真、書籍、雑誌、映画、建築、あらゆる表現が、エロ・グロ・ナンセンス〜!と、理由なき苛立ちに突き動かされて家庭内暴力をふるうアナーキーなゲバルト「壊す事が創る事」の時代だった。

そんなゲバルトなクリエーションが地球をおおい、その熱波に浮かれたおませな僕は、映画「あの頃ペニー・レインと」の主人公ウィリアムとほぼ同世代。1973年、家出した姉のベットの下に残された置き土産のレコードからロックに目覚め学校新聞にロック記事を書いていた15歳のウィリアムは、伝説のロック・ライター「クリーム」誌の編集長レスター・バングスに見初められ、ブレーク直前のロックバンド、スティルウォーターの全米ツアーを同行取材するローリング・ストーン」誌の記者に抜擢される。サンフランシスコで誕生したローリング・ストーン誌の創刊当時を忠実に再現した編集部、編集長、スタッフ等、登場するすべてのキャスティングとセットがリアルなのには驚かされる。

1973年24歳で、そのローリング・ストーン誌のチーフカメラマンとなったアニー・リーボヴィッツ。まるで映画のように1975年、ザ・ローリング・ストーンズに同行しシュートしたツアー写真が出世作となり一躍スターカメラマンと上り詰める。1980年、ジョン・レノンとオノ・ヨーコを撮影した5時間後にジョンは凶弾に倒れ、写真はジョン・レノン追悼号の表紙となって再び歴史を作り、以後、マイケル・ジャクソン、マドンナと、常に時のカリスマを撮る人物写真家を確立。1983年には「ヴァニティ・フェア」誌からのオファーを受けて10年在籍したローリング・ストーン誌から移籍。それまでのアーティストから、より幅広いセレブリティーのポートレートを撮るキャリアを積み、1991年 デミ・ムーアの妊婦姿のヌード写真が論争を呼び再び歴史を作る。1998年「ヴォーグ」誌からのオフィーで移籍後は、従来のポートレートから作り込まれた独創的な詩的ファッション写真の新世界を切り開き、今やディオール、ルイ・ヴィトンを始め、彼女の写真は世界一セットにお金がかかるにもかかわらず世界のメゾンが行列をなす。写真を美楽するポートレートのファンタジスタ。1949年 コネチカット州ウォーターバリー生まれの59歳。

Rolling Stone (January 1981)
Annie Leibovitz

Vanity Fair (August 1991)
Annie Leibovitz

VOGUE (June 2008)
Annie Leibovitz



90年代以降、テクノロジーのクリエーション、IT革命は世界を一変させた。老若男女も知識の有無も貧富の差も、人種も地域も国も時間も等価等列にした。コミュニケーションのクリエーションの、幅も規模も多種多様に自由度を拡大した。がしかし、この20年、息するように生きている事がクリエーションだった、あの「壊す事が創る事」だった理由なき苛立に突き動かさた熱波、ほとばしるパッションやエモーションを感じない涼しすぎる今に滅入るのは、僕の感性が、もはや老朽化したせいなのか? 自民党が結党された1955年生まれの僕も解党的立て直しが必要なのか? ローリング・ストーン誌のカバーに衝撃を受けた頃が懐かしい。アニー・リーボヴィッツの絵画のような肖像写真には今も目が眩むのだけど。

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