2009/08/14

追突されて。。。

六本木通り沿いの旧全日空ホテルから3分、赤坂見附方向から、やはり数分の外堀通りが交差する溜池交差点の目印は、大手総合商社 旧「日商岩井」のビルだった。その1本裏通りに、まだ黒塀の料亭や小料理屋が軒を連ねていた当時、道に詳しい運転上手さんなら必ず選ぶ交差点を斜めにショートカットする抜け道があった。六本木通りと外堀通りが直角に交わる溜池交差点の両辺を斜めにつなぐ小路。その小さな三角型の先に、これまた地形通り小さな三角の土地に建つペンシルビルを、まるで玉村豊男の「パリの雑学ノート」と妹尾河童の「河童が覗いたヨーロッパ」を手本にしたかのように改装した「赤坂グリーンホテル」という7階建てのビジネスホテルがあった。黒御影石のデコっぽい1階にはアレックス・カッツの「ザ・レッド・バンド」に迎えられるカウンターと地下への階段だけが、地下には「BISTORO BIS」という直営のビストロと電話ボックス&トイレがある、まるでパリのカフェ仕立て。その三角のホテルは三角立地らしくエレベーターを中心にして、ワンフロアーに3室の変形した屋根裏部屋のような客室と最上階にエレベーターを降りるとワンフロアーが1室のペントハウスのわずか19室。そしてアティック(屋根裏部屋)のような客室の家具調度品はすべて、オーナーが渋谷や赤坂東急ホテルの赤坂東急プラザで営んでいた、ダンスクアラビアジョージ・ジェンセンカイボイセンイッタラステルトンなどの北欧モダンとダネーゼカルテルアレッシーなどのイタリアモダンな生活・インテリアグッツに、マチスばりのアフリカンなエスニックアイテムをミックスした独特のセレクションからなる「helps your living plan CITY」という店の品々で、唯一、ペントハウスには、これまたオーナーが輸入販売していたイタリアの皮の名工「ベルニーニ」のソファを配置したこれぞ枕流、見事な洒落。そのホテルオーナー高橋毅氏は、青山ではサバティーニ・ディ・フィレンッエがあるビルにフォア・ローゼズを模したかのような「10 ROSES」という名のケーキ屋、銀座では新橋寄りに界隈の芸者衆が集う「砂糖人形」というケーキ屋、帝国ホテルには、前述のケーキ屋同様にネーミングとマーク&ロゴが仲條正義、そして空間は建築界の偉才 白井晟一の唯一のショップデザイン「亜門茶楼」という讃岐うどんもメニューにある甘味処を経営する道楽者。そもそも本業は慶応の商学部を出てから日本で最初にミース・ファン・デル・ローエル・コルビジェの家具を輸入販売したお方で、元祖北欧モダンの紹介者。もはや幻の雑誌「太陽」には、幾度となく御夫婦で登場する京都に釜を持つお茶とお花を嗜む趣味人だった。僕は幸運にも、デビュー作のVIVREが気に入られて、彼が病に伏す30のころまで全国に広がる彼の仕事をたくさん経験させてもらい、彼の仕事を支えた日本を代表する建築家 白井晟一氏やグラフィックデザイナーの最重鎮 仲條正義氏さえ舌を巻く彼の美意識とビジネスセンスを学ばせてもらった。そんな知る人ぞ知るリトリートなビジネスホテルの向かいには、国際自動車の黒塗りハイヤーが並ぶ駐車場が、そしてその並びには、90年代に入って、若手お笑い芸人の実験場「銀座7丁目劇場」で俄然勢いづいた吉本興業の東京支社が越してきた。


1997年の5月。サッポロコレクションのキャスティングで羽田から直行した先が、テイ・トウワのマネージャーとの打ち合わせ場所の吉本興行東京支社だった。帰途、慌ててビルを出て、あのショートカットされた小路からタクシーに飛び乗った。 というのは 続いて19:00から学芸大学で、僕のプロジェクトに度々参加してもらった数少ない同世代の文化人、美術評論家 伊東順二の講演会があったのだが、今回のコレクションにも協力要請をするために講演後のパーティー会場で彼と会う約束だった。いずれも多忙なスケジュールをかいくぐってのブッキングばかりで、すでに30分も遅刻しそうな状況でのタクシー。ドアが閉まる間もなく「飛ばして下さい!」と告げて六本木通りに出る直前、抜け道に新設されていた信号機に運悪く止められた瞬間、「ドン」と鈍い衝撃。「あぁー 追突かぁー」と後ろを振り返ると、シルバーのメルセデスに上品な中年女性がハンドルを握っていた。助手席側の右ドアが開き、男性が駆け寄って「お客さん大丈夫ですか?」と、タクシーの運転手より先に声をかけてきたその男性の顔を開けた窓越しに見上げると山城新伍じゃないか。素早く丁寧な対応に少し驚きながら「えー大丈夫です」と答えると、運転手から「お客さん。すいません。他の車で行って下さい。」の言葉で車を降りて、僕は後続にいたタクシーでその場を後にした。わずか数分の出来事。追突から見送りまで山城新伍氏は紳士だった。最初で最後の出会いと別れ。今朝の訃報で思い出したあの一瞬。つい先週も、大原麗子さんの訃報に回顧していたばかりだ。袖触れ合うも何かのご縁。一期一会をが骨身にしみる。明日は靖国神社に参拝。先人の御霊に慰霊を捧げ、恒久の平和を祈らなきゃネ。

我が家の夏テラスより 残暑お見舞い申し上げます。

 
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