2009/11/06

「岐かれ路」と「月待ちの恋」

白昼堂々と陽光を浴びて繰り広げられる痴態。夜の静寂にうめき漏れる恍惚の喘ぎ。町の往来の喧噪のその奥で絡み合い痴情に狂う男と女。過激な欲望、刺激的な睦み愛、官能の行き着く果ての絶頂を大胆に謳歌する先輩たちの濃厚な快楽の営み。春画に出会うと、江戸時代の大らかで奔放な性のむさぼり愛いに、ただただ欲情と感嘆あるのみ。ご先祖様。恐れ入りましたぁー。性の歓びに酔いしれる江戸の男女の熱い吐息を妄想させる睦言と枕絵は、世界に類例のない官能のポルノスケープ。この春画二十六夜の2冊、大らかな江戸の性愛を知るには良き教材。春話と春画に火照る体を持て余し苦悶する眠れぬ夜か。ひとり快楽の妄想にうっとり夢見心地か。さぁー開いてお楽しみの官能短編集なり。

春話二十六夜『岐かれ道
(色刷り春画13枚収録)

突然、男の腕に抱きしめられ、唇が塞がれた。吸い付かれた部分から、ぞくぞくするようなさざ波が掻き立てられ、女の全身へと広がっていく―あでやかな春画から匂い立つ、濃密な官能。過激で明るい男女の営み。くり広げられる痴態に、悦楽の喘ぎを聞いて、物語が紡ぎ出された。春画を堪能しながら、江戸の褥に心を遊ばせ、大らかなエロスを味わう…欲望を解き放つ、魅惑の13篇。以上、帯より。坂東眞砂子 著 新潮文庫 2007.8.1 初版 620円。

春話二十六夜『月待ちの恋
(色刷り春画13枚収録)

恋は欲望と混じりあい、昇りつめて果てても抱きあい、ふわふわと雲に乗っていた―ずっと、こうしていたいねぇ。熱く睦みあう恋人たち。快楽の虜と化す女たち。華やかな枕絵の恍惚。陽光のもとで、あるいは月を待ちながら、性の歓びに酔いしれる江戸の男女の吐息から、物語が立ち現れた。重なりあって燃え上がる官能の波…やがて愛へと昇華していく欲望の成就も爽快な、13篇。以上、帯より。坂東眞砂 著 新潮文庫 2007.8.1 初版 620円。


そしてもうひとつの「わかれ路」が

わかれ路』intersection

呆れるほどの江戸の大らかさとは対極に、1994年公開、リチャード・ギアとシャロン・ストーンの「わかれ路」intersection は、梅雨空のようなメロドラマが意外と面白い。三角関係の経験はないものの、この歳になると「ちょっとした事が違えば、たいした事が違う」人生の彩も、ちょっとは噛みしめて味わえるというものさ。物語は、学生時代からの恋仲の末、卒業とともにサリー(シャローン・ストーン)と結婚した建築家のヴィンセント(リチャード・ギア)が、妻の実家が営む名門設計事務所を引き継くところから始る。美貌と才能の上に若くして富と名声を手にするふたりは、誰から見ても社交的なサリーの営業手腕と芸術家肌のヴィンセントが似合いのおしどり夫婦と映る憧れの的。しかし、結婚とともにいつしか、まだまだ愛を奔放に楽しみたいヴィンセントと、名家を守るために仕事を優先するかたくななサリーとの関係は、噛み合わないストレスを募らせていく。そんなある日、サリーとは対照的に奔放で気さくな著名ジャーナリスト、赤毛のオリビア(ロリータ・ダビドビッチ)との出会いが。仕事第一のサリーと敏感な年頃の愛娘、そしてありのままの自分を受け入れてくれるオリビアとの間で、ヴィンセントの心は彷徨い始める。それはまさに、人生の分岐点 - わかれ路。冷静で気丈なブロンド美人サリーと、気さくで奔放な才女オリビア。好対照なふたりの女の間を、優柔不断にも行き交う男。行き違いによる思い違いを、サリーが意図して手を加える結末。本当に、真実とは真逆な思い違いのままがよかったのだろうか?3人に刻まれた永遠の選択は。サリーの気丈さが重く支配する、もう後戻りの出来ない、男と女のわかれ路

まるで心模様のような、重苦しい厚い雲に覆われたマットな現在進行形の今に、過去を映した大きな鏡が割り散らかされた、その破片が飛び散っている。時折、雲間から差す光に、形の違う時間の破片「あそこで」「そこで」「あの時」「その時」は反射し、痛々しくも今を突き刺す。「人生の彩」時間の交差が眩しくフラッシュバックする。往還する時のインターセクションをリチャード・ギアの立て目が行き交い物悲しい顛末が始る。シシーな役どころが利いた大人のメロドラマ。しかしやっぱり開けっぴろげの大らかな江戸はいいねぇー。

 
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