波打ち際で気がもまれたオールナイトな夜明け、切れたタバコを買いに裏のコンビニまで外に出た。そのほんの数分。思いのほか爽やかな夏風にさすられて気が晴れる。これならなんとか波乗りできそうか、と仕事部屋にもどると、つけっ放しだったCNNでブレーキングニュースだ。マイケル・ジャクソンの死? 50歳? 慌てて日本語の検索サイトを見ると速報が入っていた。しかもマイケル報道の横にファラ・フォーセット・メジャースの訃報までが。昨夜、いや今日になるか神宮の森が白み始めたころ、気休めのコーヒーブレークに偶然目にしたミクシの中野収ゼミのコミュ。懐かしくなり覗いてみて愕然としたばかりだった。中野教授が3年前にお亡くなりになっていたのだ。享年72歳、最後は法大の名誉教授だったらしい。日本中で学生運動の嵐が吹き荒れるころ、その社会現象を明快に説き伏せて妄信するゲバルト集団 中核派諸兄をなだめすかしていた唯一の知識人。僕を早稲田の理工から法政の社会学部に連れ込んだ、いや魅かれて自分が追っかけたのだか、揺るぎない今の自分を作ってくれた我が視点の師だ。卒業以来30年以上会ってはいないが、たまにTVで社会現象を快説される姿を見る度、この視点この視点と合点がいった大学時代を思い出していた。日本の社会学の中で、情報・記号・コミュニケーションの仕組みを語らせたらピカイチ。当時、東大から来たばかりの中野&平野助教授たちは、西部邁の言葉を借りれば、テレビでタレント化する「いわゆる知識人」とは違い、一般的には知られていないが、事の本質を射抜く「真正知識人」だった。本物の真贋者は目立たない。
1982年(昭和57年)は公私に忘れようもない結婚、退職、起業の記念と記憶の1年だった。まだ26才の1月に結婚。地元名士の次女と華燭の典を上げた。4月の誕生日をこして27歳となった10月、4年勤めた会社を辞めて社会に船出。その年の瀬、インテリアデザイン界のYMO "センチメンタルシティスタジオ" と作った処女作「SUSHI BAR RED PORGY」は、様々なメディアに取り上げられて企て業としての起業は作戦通りのデビューを飾った。新婚旅行のフィージーからの帰国便でユーミンと遭遇。帰国直後の2月、ホテルニュージャパン(赤坂見附)の火災がテレビで生中継され、大惨事を引き起こした経営者、戦後の怪商 横井英樹氏のスキャンダル報道が加熱。蝶ネクタイの出で立ちと悪びれない態度と言葉使いの怪しいキャラが炎上に油を注ぐ。大惨事は翌日も起こり、羽田沖日航機墜落事故で機長の「心身症」が流行り言葉になった。誕生日を前に500円玉が発行されて、フォークランド紛争が勃発し、その夏、フィリップから世界初のCDがABBAの曲で出され、10月にはソニーから世界初のCDプレーヤーと音楽CDが同時発売されて、デジタル時代が幕を開け、レコード、テープの時代は終わった。夏の終わりにモナコ大公妃グレース・ケリーが自身の運転による交通事故で亡くなったニュースは衝撃だった。52歳の若さ、絶世のノーブルなハリウッドスターは永遠に老いてはいけないのかもしれない。スターの宿命を感じた。ちょうどダイアナ妃の事故死に酷似するが、スキャンダラスな死とはほど遠く、最後までその名のとおり高貴な女優だった。晩秋、三越の天皇 岡田社長が影の女帝と呼ばれた愛人問題で失脚し、秋の番組改編で「森田一義アワー 笑っていいとも!」が放送開始。中曽根内閣が発足して米レーガン大統領との黄金期が始まる。そして、マイケル・ジャクソンのスリラーが空前の大ヒット。それまでPRのおまけだったプロモーションビデオをそれ自体が売れる作品となる革命をもたらした。僕が出かけるところでは、誰もがあの切れ味抜群なダンスを真似て踊ってみせて、何かにつけて合い言葉は「いいとも〜」。マイケルとタモリが流行りのキングで、グレース・ケリーの死がジェームス・ディーンの死のように老いる事のない永遠のスターとなって刻まれた、27歳の1982年。
独立間もない小僧が味わった時代の気分を補足すれば、流行語にタモリの「ネクラ」、三越岡田社長の「なぜだ!」、アニメ花のルンルンの「ルンルン」、時の林野庁長官の造語「森林浴」、日航機機長の「心身症」、山本晋也監督の「ほとんどビョーキ」。「積木くずし」がベストセラー。邦画では「蒲田行進曲」、洋画では「ET」「トッツィー」「愛と青春の旅立ち」が大ヒット。あみんの「待つわ」、松田聖子の「赤いスイートピー」と「渚のバルコニー」、岩崎裕美の「聖母(マドンナ)たちのララバイ」が、耳からあふれるほど流れていた。戸塚ヨットスクールのスパルタ教育事件。 航空自衛隊の精鋭ブルーインパルスの墜落。細川たかしの「北酒場」がレコード大賞。エアロビクスが大ブレークで、ハイレグ眩しいレオタード姿に目移りして、雑誌「ポパイ」に続いて「オリーブ」が創刊されて、当時のカミさんが登場した。翌年、「ムーンウォーク」と「ブレードランナー」の登場がその後の世界と自分を変えた。
マイケルの老いた姿はありえない。70年代のウェストコーストを象徴したセックスシンボル ファラの老いと壮絶な生き様は納得できた。老いを見せないスター。老いも生きたスター。50歳と62歳のスターが天に昇った。二度とない今一瞬がどれほど貴重か、作る事も買うこともできない命の時間。惜しみなく使い切らなきゃ。あの世に持ち込めるのは思い出だけだから。
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